その七十一

★皇室の装いを集めた本を見ながらお客様が一言。『どうして美智子様や雅子様が和服なのに天皇や皇太子は紋付袴じゃないの?』。うーん、いい質問ですね。ロイヤルファミリーを取り上げる本や番組が多い中、確かに男性皇族の和服姿は見た事が無い。★そもそも天皇家以下公家の正装は衣冠束帯である。ひな人形のお内裏様の衣装としてお馴染みで、陣内&紀香のように最近では庶民の婚礼にも人気だとか。そして一般的に男性の第1礼装である紋付袴は武家の装い。江戸時代の武家社会で略礼装として用いられ、その後明治の太政官令で一般の正装として広まった。しかし、男性皇族の礼装は洋装と定められ、布告廃止後も洋装が定着している。

★園遊会や海外要人の晩餐会などで女性皇族が着物をお召しになっていても、男性皇族はモーニング、フロックコートか燕尾服。海外訪問などの公務時はスーツである。また女性皇族も、祝賀会や神宮参拝などの折はローブデコルテで正装されているので、公式フォーマルはあくまで洋装。そして衣冠束帯や十二単を纏うのは、婚礼の儀や即位の礼、宮中祭祀などごくごく一部の行事に限られている。

★ついでに書くと、皇室では黒留袖は着用しない。清子様の婚礼時に美智子様が色留袖をお召しになっていたのを見て不思議に思っていたのだが、これは終戦時GHQが喪の色でもある黒を忌避したからだとか。本来、公家の喪服も黒ではなく白だし、黒留袖というのは確かに違和感があるのかも。かく言う皇族のドレスコードは皇室典範でこと細かに定まっているらしい。

★イギリス皇太子の結婚が話題になっているが、婚約者のファッションが庶民的だと評判だ。開かれた皇室と言いながらも、日本の皇族はヨーロッパに比べてまだまだ不自由が多そうだ。しかし、こと着物に関して言えば、美智子様のご実家正田家から3代続く着回しであったり、仕立て替えなどをして受け継いでいらっしゃる事が分かる。もちろんお召し物は桁違いの素晴らしさではあるが、これほど日本の伝統を守っている家族はあまりないのかも知れない。また皇室のご養蚕は千年以上の歴史を持ち、美智子様が今は希少な野蚕を育てていることも付け加えておく。(梶原志津)