その八十五 ★少し前の事になるが、FIFAバロンドールを受賞した澤穂希選手に目を奪われた。世界に日本の美を示す民族衣装での登場。昨年秋の園遊会に出席した時と同じ水色の手描き友禅の振袖で、同じ着付師がスイスにも同行したらしい。下世話だが、お値段は50万円前後といったところか。33歳の堂々たる振袖姿は、成人式の時のアイドル達より格式が高く美しかった。アスリートだけに姿勢も良く、まさに大和撫子としての誇りに満ちていた。 ★年末の紅白歌合戦では、例年より振袖の出番が多かったように思う。テレビでは数十年振りの振袖姿を見せた藤あやこさんをはじめ、オールドファッションな演歌勢は佳作だったが、ベストだったのは司会の井上真央ちゃんがオープニングで見せた黒の大振袖。やや裄が足りないなとは思ったが、何と京都で見つけたアンティークで私物なのだとか。帯やぽっくりは撫松庵の物だったが、真央ちゃんの清楚なイメージにぴったりだった。残念だったのはユーミンの桜色の中振袖。一目で人間国宝・森口華弘の作品と分かる蒔糊の友禅は成人式の時に誂えたものらしいが、正直ピンと来なかった。彼女の御実家は呉服店だし、美術館に収蔵されてもおかしくない着物は7〜8百万円は下らない代物だが、何だかしっくり来ない。同じピンクでも審査員の大竹しのぶさんの辻が花の訪問着はとても似合っていた。何より、なぜ大振ではなく中振なのかが気にかかる。 ★振袖は未婚女性の第1礼装だと知らない方が結構いる。タレントさんや美容家のような方は例外だが、普通は嫁ぐと着られなくなる。だが、振袖と言うのはやはり着物の中でも別格で、着用した時のテンションの上がり方はハンパじゃない。振袖で集まるコスプレ会なるものを開催するミセスも多いらしい。反対に、未婚でも年齢的に遠慮してしまう30代以上の方も少なくないが、先の穂希さんのように胸を張って振袖姿を披露して欲しい。年相応の着こなしが魅力になるはずだ。(梶原志津) |