その百三十一 ★昨年のノーベル賞晩餐会。物理学賞をお受けになった梶田隆章氏夫人美智子さんは、何と加賀友禅の色留袖をお召しだった。受賞が決まってからお求めになった中町博志作の逸品。アイボリー系のお着物に白比翼、ゴールドの袋帯に帯留めというノーブルかつモダンな装いで、スエーデン国王のエスコートにも香り立つような美しさで応えておいでだった。翌日の王室主催の晩餐会には訪問着を着られたそうだが、加賀友禅というと石川県出身の方にはなかなか手が出る代物では無い。華やかな京友禅よりも抑えた表現ながら、御値段というと前者とは一桁違う。国指定の伝統工芸品であり、つまり全てが作家物なのだ。石川県で女子をお持ちになった親御さんは大変なのである。 ★いやいや、今回のテーマは加賀友禅ではなく、大村智教授のお嬢さん、育代さんの振袖姿が物議を醸し出した件。前回、30、40代でもどんどん振袖を着よう!と書いたばかりだが、せっかく振袖をお召しになったお嬢さんに『40代で振袖を着ても良いのか』と違和感を露にする方が多く。これは一言、と思った次第。★教授の受賞時、スッピンでインタビューにお答えになっていた育代さんと、振袖姿の彼女とのギャップは確かに有った。しかし、姓が同じで教授とお2人暮らしと いうことから、未婚かどうかは別にしてシングルだということは分かる。ということは、公の場にお出になる第一礼装は間違いなく振袖! もし年相応に色留袖をお選びになっていたとしたら、歳の離れた奥様をお連れになったと思われるのではないか、というお考えも有ったのではないかと思う。 ★問題の振袖は黒。黒だから地味目で良いだろうと思ったとしたら、そこが間違いだったのだ。見たところ、帯はゴールド系で、黄緑の帯締めに絞りの帯揚げ、おまけに頭には大きな花をお付けになっており、おそらく成人式にお召しになった衣装そのままなのではないかと。前回書いたばかりだが『年齢と個性に合わせたコーデではなく、着せられた感が否めない』のである。以前、バロンドール賞受賞時&園遊会で澤穂希選手がお召しになっていた振袖は、華やかな水色だったが全体のコントラストが抑えめで、控えめなまとめ髪にはかんざし、と大人の気品が漂っていた。当時33歳だった彼女の振袖姿が評判が良かったのは、まさにコーデが年齢と個性に有っていたからなのだ。(梶原志津) |